TopicsEssay

小さな蜂の使命

2017.06
文:中村幸代


我が家の玄関の真上に、蜂が巣を作ってしまいました。といっても、スズメバチのような凶暴な種類ではなく、2センチくらいの比較的小ぶりな蜂。それがたった1匹、1センチほどの巣に張り付いて、微動だにせずじっとしているのです。目を凝らして巣を観察してみると、カクカクした穴が3~4個空いていて、確かに蜂の巣!いくら凶暴でないとはいえ、玄関を出入りするたびに頭上に蜂がいると思うと気が気でなく、数日後、思い切って取り払うことにしました。蜂の習性で、日没後は少し大人しくなるらしく、夜に決行。恐る恐るホウキで巣ごと蜂を取り払いました。小さな巣はどこかに転がって見失い、ただホウキにしがみついた蜂が、持ち手をつたって私に攻撃してこないか、それだけが怖くて、ホウキごと放り出して玄関へ逃げ込みました。

翌朝、そーっと玄関のドアを開けると、投げ出されたホウキの周囲に蜂の姿は無く、一安心。巣は風に飛ばされたのか、跡形もなく消えていました。そして午後、外出先から戻った時に玄関の真上に目をやると、なんとまたあの蜂が張り付いているのです。巣を失ったことに戸惑っているのか、悲しんでいるのか、、、

蜂は、生まれながらにして自分の使命を知っていて、ひたむきに与えられた任務をこなして命終わると聞いたことがあります。この蜂も自分の使命を全うするために、再び飲まず食わずで子供たちを守ろうと戻ってきたのかー。

昨日までここにあったはずの存在。守るべきものを失ってもなお、そこに使命を果たそうとする姿に感動しつつ、、、ごめんね、、、選んだ場所が悪かったよ。そのあと、殺虫剤を買いに行ってしまいました。


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