TopicsEssay

試練を楽しむ

2017.04
文:中村幸代


 先日、仕事上の試練がありました。テレビ番組、あるいは催しなどのために作曲をするのが私の仕事。先方の望む音楽のイメージを期日までに形にしなくてはなりません。打ち合わせで、どんな曲を望んでおられるのか、どんな楽器編成が相応しいのか、あらゆる情報をメモして、「さて」、と鍵盤に向かって作曲をするのですが、時として、良かれと思って進めた曲の方向性が違ってしまっている場合もあるのです。特に『番組のイメージを変えたいので、今、放送されている楽曲とは違う雰囲気でお願いします』というオーダーの時は要注意。前例を変えるとなると、一気に焦点をしぼるのが難しくなります。

 この間も、締切の前日に先方に聴いてもらったら「方向性が違う」とのこと。胃に穴が開きそうでした。なぜなら、あと数時間の間に、納得して頂ける曲を作り、仕上げなければならないからです。こんな時、大切なことは“苦しまない”こと。もうダメだ、とか、今度否定されたらどうしよう、などと考え出したら、もう苦しくて作曲どころではありません。大丈夫!なんとかなるさ!よーし!お望みの曲を書いてみせまっせ!というくらいに自分の心を無理にでも明るく燃え立たせていって、やっと作曲と向き合うことができるのです。精一杯やってダメなら、それもOK。そんなふうにして、今回の試練もなんとか乗り越えることができました。

 結果はどうであれ、一生懸命やればいい。でも、精一杯力を出すには悲痛な気持ちじゃ難しいから、試練を楽しむぐらいに思えたら、きっといいんですよね。そういえば、松岡修造さんがおっしゃっていました。『崖っぷち大好き!』って。なんてポジティブ!



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