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その日のために

2016.02
文:中村幸代



  子どもの頃、勉強は好きでしたか?

 私は、どちらかというと「NO」でした。「人事を尽くして天命を待つ」という言葉が好きな母に、努力することの大切さは度々教えられてきましたが、「どうして勉強しなくちゃいけないの?」という素直な疑問に、当時納得のいく答えは聞けなかったように思います。勉強の大切さを痛感したのは、ずっと後のこと。仕事を始めてしばらく経ってからでした。仕事とは、「仕える事」と書くように、自分の持てる“なにか”を最大限活かして、誰かの役に立たせてもらう、喜んでもらう、それが仕事なんだとお腹に落ちたのは、もう30に手が届く年齢になってのことで、いまだに「もっと勉強しておけば、役に立てたかもしれないなあ」と悔やんだりすることがあります。

 先日、ノーベル物理学賞を受賞なさった梶田隆章さんが、子どもたちにエールを贈られている場面をたまたまテレビで拝見しました。その時にお話されていたことの中で、とても印象に残った一文があります。
 「なにか、大切なことに出逢ったときのために、今から準備をしておきましょう。その準備とは…“勉強”…ですね」
 なんて素敵な、夢のある表現でしょう。高い偏差値や競争社会を生き抜く為の勉強ではなくて、大切なことに出逢ったときのための準備。それが“勉強”。

 大人になってからの勉強は、言い訳が先にたってしまって、なかなか継続が難しいと感じています。でも、これから先に、どんな大切なことに出逢えるか分からない。
 勉強と思うと肩に力が入ってしまいますが、「準備」と思ったらなんだかワクワクしてきます。まだ見ぬ出逢いが待つ、旅のカバンを準備するように…。


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