TopicsEssay

アルバム

2015.11
文:中村幸代



 棚の奥にしまいこんでいた真新しいアルバムを小学2年の娘が見つけて、「写真貼ろうよ!」と言ってきました。そうだった・・・。いつか、娘の幼稚園の時の写真をまとめなければと思って買っておいたアルバムだったけれど、ずっと後回しにしてきて娘はもう2年生。
 写真を貼りながら、「年少さんだからほら、こんなに小さいよ、かわいいね。」と言うと、少しお姉さんになった自分を自覚してか、ちょっと得意そうな顔をしてニコニコ笑う娘。照れくさいのか「お兄ちゃんのを見てみよう。」とお兄ちゃんのアルバムを出してきました。「どれどれ。」と私。すると懐かしさや可愛さとは違う、別の感情がよみがえってきました。
 8ヶ月で産まれた「お兄ちゃん」は、身体が弱くて何度も入院し、救急に運び込まれました。笑顔の写真を見ても、苦しそうな息子につきっきりで看病した、あの時の切ない想いがくっついて見えるのです。それと同時に、今11歳になって元気に学校へ通えている現実が、奇跡のように思えて本当に有り難いと幸せを感じました。

 毎日慌ただしく過ごしていると、ゆっくり昔の写真を眺めることもありませんが、こんな風に「今」に繋がっている過去を思い出してみることも大切なのかもしれません。私の子供の頃のアルバムも実家に置きっぱなしで何十年も開いていませんが、今度そのアルバムを手にするとき、見え方が昔とは違っているのではないかと思うのです。私も息子と同様、とても身体の弱い子でした。若い母や父、幼い姉に囲まれている自分の小さな姿を見た時に、どれほど周囲の人たちに守ってもらい、心を向けてもらってきて今があるのかを、静かに教えてくれるような気がしているのです。そう思うと、子どものアルバム作りは、未来の宝物作りですね。
 物言わない一枚の写真が、形に見えない大切なことを、家族の心に届けてくれるかもしれないから。

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