TopicsEssay

秘密の場所

2015.10
文:中村幸代





 来年の2月に受験を控えた息子が、先日悲しそうな顔をして、つぶやきました。
 「小さい子はいいなあ、好きなだけ遊べて。ぼくももっと遊びたかったな・・・。」
 「もっと遊びたかったな」という言葉が息子の口から出て、ドキリとしました。私は息子に小さな時から、いろいろな習い事を試させてきました。ただ息子に「悲しい思いやみじめな思いをさせたくない」という一心から、いろいろな教室に息子を引っ張りまわしたのでした。

 「どんなことをして遊びたかったの?」と聞くと「なんかさあ、空き地とか裏山とかに秘密基地作ったり、ツリーハウスを作ったりして、そこでおやつを食べたりとかさ。楽しそうじゃない?」
確かに。それを聞いてちょっとほっとしたのは、その願いを実現させることができなかったのは私のせいではなくて、東京という環境がそれを許さなかったからなんだという「言い訳」を見つけたからでした。「そっかあ。この辺には空き地も裏山も無いもんね。」

 私が子供の頃に住んでいた鎌倉の小さな家のすぐ裏には甘縄神明神社という古い古い神社があって、そこが私の遊び場でした。神社には長い階段が山の奥へ奥へと伸びていて、登れば登るほど、空気が澄んでくるというか、静寂が緊張度を増して、何かおそれおおいものの存在を肌で感じるような体験を度々しました。一番てっぺんのお社の裏から細いケモノ道があり、そこをよく姉と探検しました。時にはお菓子を持っていって、秘密基地と称して生い茂った草の上に敷物をしいて時を過ごしたこともありました。そんなことが、この辺りの今の子供たちはできないんですね。公園でボール遊びも禁じられている時代。なんとも残念なことです。

 大人になってからも「秘密の場所」というのは魅力的なものです。それがお店であれ、好きな景色の見える場所であれ。私は、まだそんな場所を見つけられていないように思いますが、いつか見つけたら誰かを連れていってあげたいなと思うんです。「とっておきの場所があるのよ」と。その場所でなら、いろいろな話をして心の距離が近くなれる気がするから。あなたにはありますか?秘密の場所・・・。

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