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10年ぶりぐらいでしょうか。この秋、久しぶりに森を歩きました。見上げれば、風にゆれる葉がキラキラと光り、足元を見れば、重なり合う落ち葉の隙間からどんぐりが顔を出しています。耳をすませば、風が通り抜ける音、鳥の声、小川の水の音も聞こえてきました。思わずマスクをずらして深呼吸すると、清らかな空気が身体じゅうに染み渡るように感じられました。

夏の焼けるような日照りにも、木枯らしや冷たく重い雪にも耐えて、ただじっと辛坊強く立ち続けて生きている木々。何年も何十年も、そうして年輪を重ねてきた木々の森に、私たち人間はどれほど恩恵を受けていることでしょう。

森が豊かであれば、雨水が流れ出ることなく蓄えられ、海も美しく豊かになると聞きます。考えてみれば、私の住まいも家具もピアノも楽譜も、どこかの森で育った木によって作られていたのでした。酸素もそう。森からの贈り物だということを日頃全く意識せず過ごしていました。

人知れず、自己主張することもなく、与えられた場所に芽を出して、静かに生きる木。そして大きくなればなるほど、強い風や暑い日差しにさらされる、木。でも大きくなればなるほど、たくさんの生き物の営みを支えて守り、与えていく存在になる、木。そんな木々の育つ森が、未来永劫に豊かでありますように。森に感謝しつつ、大切にしていきたいと強く思うのでした。

文 中村幸代

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