TopicsEssay

タンポポの綿毛

2016.06
文:中村幸代




 私はタンポポの綿毛が大好きです。
 子供の頃、あの綿毛を見つけてはポキンと茎ごと頂いて、大事に家まで持って帰ったものです。フーッと息を吹きかけて綿毛を飛ばしたいけれど、あまりにも可愛らしい・・・。まあるいポンポンは野原がくれた宝物でした。

 あの頃の私の気持ちそのままに、娘もタンポポの綿毛が大好きで、見つけると興奮して一目散に駆け寄っていきます。

 それにしても、なぜあれほど愛おしい姿なのでしょう。尖ったところがひとつも無く、やわらかく美しい球体。小さな種に生えた純白の羽は、あまりにもかぼそくて、とても遠くへは飛べないけれど、時に誰かの背中にちょこんと乗っかったり、ノラ猫のしっぽにぶら下がったりしながら、新天地を開拓していく。なんと優しくたくましい姿でしょうか。

 今日も帰り道にタンポポの綿毛を見つけました。
 あの頃のように手で触れることはしませんでしたが、立ち止まって見つめていたら、こんなメッセージをくれた気がしました。

 小さな種でも、どこかできっと芽を出すことができる。小さな自分の『ありがとう』や、苦しい中にいる人へ『少しでも元気出してね』という思いも、誰かを介してやがて届くかもしれない。自分は無力だと、あきらめることはないんだよ・・。

 風に揺れるタンポポの綿毛が笑っているように見えました。
 私はやっぱり、タンポポの綿毛が大好きです。

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