直感力
近所の耳鼻科の先生の話をしたいと思います。20年以上、家族全員がお世話になっており、耳鼻科といえばこの先生というくらい、地域でも篤く信頼されています。子どもが小さい頃には、よくママ友が集まり情報交換をしたものですが、かなりの確率でこの先生の不思議な力の話が出たものです。
「息子が風邪っぽいから連れて行ったら、先生が、“お母さんの方が心配だから、そこに座って”って言われてさ。“いやいや私は熱も無いし平気です”って断ったんだけどね。」
「へえ、それでどうなったの?」
「診察券も出してないのに私の検査をしてくれて、なんとインフルエンザ陽性だったのよ! 疲れてはいたけど自覚症状が無かったから、不思議だった。」
「すごいね、それ。」
多くは語らない先生ですが、テキパキしていて眼光が鋭く、久しぶりに受診しても「○○ちゃんは元気ですか?」と子どもの名前を覚えていて気遣ってくれるので、驚きとともに感激するママは私だけではありません。
先日、私が鼻風邪をひき、数年ぶりにその耳鼻科を受診しました。先生は息子と娘の名前をおっしゃり、「大きくなったでしょう?」と言ってくださいました。やはり感激。その日の夜には鼻水だけでなく咳が出始めましたが、鼻の薬だけでなく、よく眠れるようにと寝る前に飲む咳止めまで処方されていたので、本当に助かりました。
あの眼光の鋭さは、患者さん一人ひとりを大事に思う、いわばプロの“本質を見抜く目“なのではないかと思っています。どの世界でも、その道を極めるとある種の直感が働く、と聞いたことがあります。本質を見抜く目による直感が、私たちにとっては不思議な力に映るのでしょう。人を助けるための直感力。それは、その道を誠実に歩んだ人だけが得られる力。そんな力で誰かの役に立てるとはなんと素晴らしいことだろうかと、しみじみ尊く思うのでした。
文 中村幸代