TopicsEssay

南の島から

2015.09
文:中村幸代



 私はこれまでにパプアニューギニアをはじめとする、太平洋戦争の傷跡が残る南の島々を訪れる機会を頂いてきました。南の島といえば、青い海、美しいヤシの木や満天の星空がすぐにイメージできますね。私は音楽活動の中で大自然をテーマに作曲する機会も多いので、南の島で出会った自然の風景は、今後作曲する際の「宝」になるだろうと思っていました。
けれども、実際に島を歩いてみると、目に映るのは美しい砂浜だけでなく、置き去りにされた茶色い大きな鉄の塊があちこちに。戦争のために、たくさんの命がここで散っていったという事実を静かに、重く語りかけてくる武器の残骸でした。
 聞こえてくる波の音、吹く風の音、島の人々のくつろぎの会話をなんとなく聞いていると、偉大な自然の営みが過去の悲劇を浄化してくれたようにも感じます。愚かな人間の争いの傷跡を手当てしながら、自然は何を望んできたのでしょう。
 平和であるからこそ、自然が輝き、世の中が素晴らしいものになる。たくさんの人の最後の涙、壮絶な光景を見てきた南の島は、私に平和であることの尊さを教えてくれました。これこそが、島でもらった宝物です。

 今年は戦後70年。厳しい戦争を体験してこられた方も高齢になられて、体験談をうかがう貴重な機会がこれから減ってしまうと思うと何か恐ろしいような不安を感じます。
 戦争を体験していなくても、これからの子供たちに「平和の尊さ」を伝えていく使命があると強く感じる今日この頃です。

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