TopicsEssay

木の実の贈り物

2019.8
文:中村幸代


『木の実の贈り物』

我が家の玄関の脇に、小さなスペースがあり、そのわずかな土地に何年か前からオシロイバナが自生するようになりました。それはぐんぐん育ち、気がついたときには幹が2センチくらいまでにすぐ成長してしまいます。お隣の敷地にまで飛び出すので、「そろそろ切らなきゃなぁ」と思いながら日々に追われておりました。

ある日の夕方、仕事から帰ると、小学1年生か2年生くらいの女の子が、オシロイバナのところで何かしています。家の住人が来たとなっては、ビクッとしてしまうだろうと思い、私は思い切り笑顔で、そおっと「何か良いモノあった?」と声をかけました。ふりかえった女の子は、「うん!」と小さな片手に溢れそうなくらいのオシロイバナの黒い種を見せてくれました。私は「よかったら、たくさん持っていってね」と声をかけて、なるべく彼女の時間を邪魔しないようにすぐに家の中に入りました。

あんなに宝物を見つけたようにオシロイバナの種を喜んでくれるなら、もう少し切らずにおこうかな。そんなことを考えながら、慌ただしく夕食の支度に取り掛かると、ニンニクを切らしていることがわかり「あー、面倒だけど、買ってくるかー」と、ため息とともに靴を履いて玄関のドアを開けたその瞬間、私の目に飛び込んできたものがありました。

オレンジ色のプチトマトのような木の実が3つ、お行儀よく並べて置かれていたのです。
直感的に「あの女の子が、オシロイバナの種のお礼に置いてくれたんだ!」とピンときました。

なんて可愛い、ステキな贈り物でしょう。オレンジ色の木の実は、きっとオシロイバナの前にどこかで見つけた宝物だったのではないかしら。大事に持って帰って、お母さんに見せようと思ったのかもしれない。それを、お礼に置いていってくれたのね、きっと……。いろいろな女の子の気持ちを想像しながら、私はその実をありがたく拾い上げ、部屋の窓辺において、あらためて靴を履いて、スーパーへ向かいました。自転車に乗って、鼻歌を歌いながら。

文・中村幸代

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